「この度こちらに異動になりました、秋原佳奈美です。精一杯頑張りますので、宜しくお願いします。」
佳奈美は新しく異動された営業所で、これから共に励む同僚に挨拶をした。軽く拍手を浴びせられ、佳奈美は割り振られた机に向かった。
日常を取り戻した営業所内は賑やかさをも取り戻し、見るもの全てが新しい佳奈美の元へ上司がやってきた。
「秋原さん。これから秋原さんには滝田さんが担当していた顧客を担当してもらうよ。これが顧客リストね。」
「あ、はい、どうも。」
「わからないことがあったら聞いてね。」
上司は短く残し、いそいそと席に戻って行った。
大学進学で都会に出て、そのまま保険会社に就職、しばらくそこで暮らしていた佳奈美は、両親の体調の変化のため、田舎に戻って来た。幸いにも勤めていた会社を辞めることはなく、営業所の異動だけで済んだ。というのも、この営業所で働いていた滝田という先輩が不慮の事故により就業不能になってしまったからなのである。
滝田の顧客リストに目を通す。この途方もない数の顧客に、これから自分が新しい担当だとして挨拶回りをしなければならない。……途方に暮れる。
「ん……?」
その顧客リストの中に気になる名前を見つける。
――永田明成。小学校から中学校まで佳奈美とことごとく同学級になった、幼馴染の男の子の名前であった。両親と家族三人で加入しているらしく、両親の名前まで載っている。つまり、まだ結婚はしていないらしい。
「へえー……永田くん、まだここに居たんだ。ご実家は農家だったかな。」
途方もない挨拶回りに一縷の希望を見つけ、佳奈美は隠すように目元を緩ませた。
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